デートの場所は……
著者:高良あくあ


 そんなわけで日曜日。
 彩桜学園の校門前には、俺達科学研究部プラス海里が集まっていた。予想通りというべきか。暇なのは海里だけで、瀬野さんは吹奏楽部の練習、陸斗は大会らしい。

「さて、とりあえず春山さん達が最初に行く場所はとっくに調べてあるわ。後は尾行すれば済む話よ」

「何でそんなことが調べられるのかが謎なんですが」

「馬鹿ね悠真、そんなの『私だから』に決まっているでしょう? 私の情報網を甘く見ないことね」

「……もうそれで良いですよ」

 嘆息すると、今度は紗綾が部長に訊ねる。

「でも、尾行するって簡単に言いますけど……結構難しいですよね?」

「ああ、それも大丈夫よ。慣れているから」

 何故慣れているのか、と突っ込んだら負けなんだろうな。
 部長は海里の方に視線を向ける。

「それに、私以上に尾行に慣れているであろう後輩もいることだしね」

「……まさかとは思いますけど、そのためだけに僕まで巻き込んだ、なんてことは無いですよね?」

「尾行慣れを否定はしないのかよ」

「うん。……尾行だけじゃないけどね、慣れているのは……」

 遠い目をする海里。ああ、そこら辺は良く知っているさ。むしろもっと異常なことが尾行以上に得意だったりすることも。

「それじゃ、さっさと行きましょうか」

 部長の一言で、俺達はバス停に向かった。

 ***

 バスと電車を乗り継ぎ、着いたのは学校から割と離れたところにある遊園地だった。近くには映画館やらデパートやら何やらも充実しているため、デートスポットとしてはそれなりに人気の場所らしい。
 ちなみに今回も交通費は部長持ちだった。……俺が『金が無いから』と逃げることを防ぐためとはいえ、気前良すぎだろう。こうも貸しばかり作っていると後が怖い。

「とりあえずまずは遊園地ね。早めに切り上げて、その後は買い物なんかもするみたいよ」

「行く場所だけならまだ納得出来ますけど、スケジュールまで知っているのはおかしくないですか!?」

「だって私だもの」

 ……納得したら負けだろう。

「え、えっと、それじゃ私達も夕方まで遊園地で尾行……ですか?」

 恐らく話を逸らす意図も含まれているであろう紗綾の問いに、部長は首肯する。

「そうね。見ているだけっていうのもつまらないから、二人を見失わない程度に私達も楽しみましょうか。……二人一組にでもなる?」

「いえ、普通に四人で良いでしょう!」

 海里が突っ込む。

 ……よく考えてみると、俺も遠慮願いたかった。
 部長と一緒だと何をされるか分からないし、海里とだと部長達に何を言われるか分かったものではない。そもそも遊園地で男二人なんて虚しいにも程がある。紗綾と一緒ならまだ良いが、海里は部長と一緒なのを避けたがるだろうし。

 部長が不満そうな顔をする。

「つまらないわね……ま、良いわ。さっさと追いかけましょうか」

 二人の後を追い、数人を間に挟んで列に並ぶ。春山さん達二人が最初に選択したのは、ジェットコースターのようだった。

「って最初から絶叫系かよ!?」

「春山さん、大人しそうな割に凄いチョイスね。しかもここの遊園地で一番レベルが高いものを」

 部長のその言葉を聞いて降りてくる人を観察していると、半分くらいが死人のような真っ青な顔をしていた。……大丈夫なのか、これ。まぁ、残り半分は満面の笑みで「楽しかった〜」とか言っているところを見ると、多分絶叫系が好きな人には楽しめるのだろう。

 となると問題は、

「紗綾、こういうの大丈夫か?」

「え? あ、はい。小さい頃は苦手だったんですけど、今は結構好きです」

「そっか、なら大丈夫だな。海里も俺も平気だし。部長は間違いなく絶叫系好きでしょうしね」

「ええ、そうね。前に別な遊園地で、ジェットコースターだけ十回連続で乗って帰ったりしたから」

「どんな楽しみ方ですか!」

 まぁ、とにかくそれなら問題は無いだろう。順番もギリギリ春山さん達と同じ回になりそうだから、見失うなんてことも無いだろうし。


 ……なんて思ったのだが、

「甘かった……」

 ジェットコースターを降り、恐らく休憩兼昼食目的で近くのカフェに入る春山さん達を追って休憩しながら、俺は呟いた。
 隣で紗綾が苦笑する。

「確かに、結構凄かったですね……まだ足がふらついています」

「降りた直後は平衡感覚無かったしな」

「はい……」

 嘆息する俺達とは対照的に。

「そうかしら? 普通に楽しかったと思うけど」

「いえ、流石にそれは僕達の中じゃ先輩だけだと思いますけど……でも、そんなに酷くも無かったかな」

 涼しい顔で首を傾げる部長と海里。
 ……まぁ、予想は出来ていたのだが。部長が絶叫系大好きなのはさっきの会話で確認取れていたし、海里も妙に絶叫系に強い。前に理由を訪ねてみたら『乗っても命に危険が無いって、良いことだよね……』と妙に遠い目で言われてしまったので、それ以上訪ねるのは避けているのだが。

「あ、春山さん達、次に行くみたいよ」

「って、マジですか!? 回復早っ!」

 急いで会計を終え、外に出る。俺と紗綾は若干ふらふらと。
 春山さん達が並んだ列の先を確認する、ええと、次は……



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